ここでは、19世後半のイタリアで活躍した作家エドモンド・デ・アミーチス(Edmondo De Amicis, 1846-1908)による、『洋上にて(Sull’Oceano)』(1889年刊行)という作品を翻訳・紹介していきます。
デ・アミーチスはイタリアでも日本でも、もっぱら児童文学の書き手として知られています。代表作『クオーレ』(1886年刊行)に収録された「母をたずねて三千里」は、高畑勲監督によってアニメ化され、日本やイタリアのみならず、広く世界で親しまれています。
いまでは『クオーレ』ばかりが有名なデ・アミーチスですが、この作品を手がける前はむしろ、紀行作家としてたいへんな人気を博していました。ここで取りあげる『洋上にて』も、一種の旅行記に分類できる作品です。本書では、19世紀末のイタリアにおける大きな社会問題だった、移民の現象に焦点が当てられています。著者は、ジェノヴァからブエノスアイレスへ移民を運ぶ汽船に同乗し、船旅の様子を克明に記録しています。『洋上にて』は、アメリカ大陸へ渡るイタリア人移民の姿を描いた、同時代における唯一の文学作品とも言われています。
20世紀末から現在にかけて、ますます移民・難民の問題が前景化しているイタリアにおいて、『洋上にて』は新たなアクチュアリティを獲得しつつあります。当連載が、現代を生きる私たちの問題について考えるための、ひとつの手がかりとなれば幸いです。
『洋上にて』連載一覧
第0回(訳者緒言) 第1回 第2回 第3回 第4回
執筆者:栗原俊秀(翻訳家)
関連作品

アイキャッチ画像:ラファエロ・ガンボージ《移民たち》1894年
画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Raffaello_Gambogi_-_The_Immigrants_(1894).jpg