artsandphil.jpについて

 新しい価値を生みだすために

 21世紀も20年が過ぎ、今なお世界は急速に変わり続けています。グローバリゼーションのさらなる進行、気候変動、価値観の多様化、移民問題、貧富の差の拡大、マイノリティの権利向上、スマートフォンやソーシャルメディアの発達と普及、そして新型コロナウイルスの世界的流行。戦後に作られた制度や価値観がいまや至るところで機能不全におちいっているように見える中でいかに生きていくか。変わりゆく状況の中で、新しい時代のための思想を見いだすことはかつてない急務となっています。

 哲学や芸術をはじめとする人文的な知はつねに歴史と向き合い、対話し、読み換え、時には誤解しながらも新たな発想や思考法、価値観を作りだしてきました。新しい価値とはある日突然降って湧くものではなく、現在を歴史とぶつけることによってのみ生じてくるものです。いわゆる「古典」とは、歴史の中でさまざまに読まれ、語られることで、その都度新しい姿で私たちの前に現れてきたものが結果的に獲得する肩書きに他なりません。

 本サイトはさまざまな場面において行き詰まりが露呈していながらもそれに代わるオルタナティブがない現状に対し、今一度哲学と芸術から新しい価値や発想を生みだすために構想されました。洋の東西も時代も問わず集められた素材と、それに対する各執筆者の見解は、単に知識を与えてくれるだけでなく、新しい発想や思考法をもたらしてくれるでしょう。

 本サイトにあげられる文章はどれもたんなる解説や手軽に入手し消費できる「情報」ではありません。ここに載せられる文章はいずれも書き手自身が体験し、考え、練り上げた思考の産物です。時には難しいと感じられたり、うまく理解できなかったりすることもあるかもしれません。しかし難しい、理解できないと感じるのは、扱われている内容がそれまでに考えたことがないような事柄だからなのかもしれません。一度難しいと思っても、あるいは理解できないと感じても、時間をおいてもう一度読んでみていただければと思います。その時には印象もまた変わっているかもしれません。そしてそれはあなた自身が変わったということなのです。

 Artとは「技術」、Philosophyとは「考えること」

 Artとは何でしょうか。いまでは美術や芸術をあらわす言葉として「アート」とカタカナ書きされることも多くなりましたが、この言葉は、元は美術や芸術にかぎらず、さまざまな人間の「わざ」や「技術」を表すものでした。

 英語やフランス語のartの元になったのは、ローマ帝国の言葉だったラテン語のars(アルス)という単語です。ラテン語arsのそもそもの意味は「何かを組み合わせる技術」「何かを作りだす技術」でしたが、この単語はやがてさまざまな仕事やそのための手段、それを行う者の性格や才能、さらには知識や学問、芸術にいたるまでを意味するようになります。artが知識や学問を意味するのは、日本の一般教養に対応するリベラル・アーツ(liberal arts)という言い回しに残っており、この表現もまた古代ローマにまで遡ることができます。

 一方で、今では「哲学」と訳されるphilosophyもまた、文字通りには「知sophia」を「愛するphil-」ことを意味します。この言葉が今で言う哲学のような意味を持つようになったのは紀元前4世紀ころ、古典期ギリシャにおけるソクラテスとその弟子プラトンの周辺だったとされています。

 しかしプラトンの書き残した初期の対話篇に登場するソクラテスをみる限り、彼にとっての哲学とは一種の対話であり、対話を通して真実に迫ること、それによって真の徳を身につけ幸福へと至ることを意味していました。つまり彼にとって「哲学」とはみずから考え、それにしたがって生きることそのものでもあったのです。プラトンが書いた『ソクラテスの弁明』には、「息の続くかぎり、哲学すること(=知を愛すること)を決してやめない」というソクラテスの言葉が残されています。

 英語圏で博士号取得者を表すPh.Dという標記もまた、ラテン語のPhilosophiae Doctor(=Doctor of Philosophy)の略であり、ここでもphilosophiaないしphilosophyという言葉は、今でいう「哲学」だけでなく、広く学問全般を表すものとしてもちいられています。

 さまざまな知を得ること、自分自身で考えること、そしてそれを日常の生活や人生の局面において活用すること。本サイトがそうしたことのよすがとなれば幸いです。

 —Live with Arts and Philosophy.
 どうぞよろしくお願いいたします。

 執筆者について

 本サイトの執筆者は、いずれも関連分野において専門的な教育もしくは経験を積んだ人たちであり、博士号取得者も多く含まれています。専門的で信頼のおける知識を社会へと還元するための新たな試みとして、どうぞご支援ください。

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 更新情報

 Ver.1.0—2021年5月31日
 Ver.2.0—2021年8月1日