ラファエロ・ガンボージ《移民たち》1984

[翻訳]エドモンド・デ・アミーチス『洋上にて』第1回——移民の乗船(1)

 夕方に到着したときにはすでに、移民の乗船が始まってから1時間が過ぎていた。「ガリレオ」は小さな橋を波止場に渡して、哀れな人びとを次から次へ詰めこんでいった。警察の職員がパスポートの確認をしている正面の建物から、途切れることなく行列がつづいている。この人たちの大部分は、ジェノヴァの道ばたで丸くなっている犬っころのように、ひと晩かふた晩を野外で過ごしたあとだった。誰もが疲れはて、眠たそうにしている。労働者、農夫、乳飲み子を抱えた婦人、まだ首に幼稚園の名札をかけているような子供。たいていが、折り畳みの小椅子を脇に抱え、あらゆる形の袋や箱を手に提げるか頭に載せ、敷布団と毛布をかき抱き、寝台の番号が記された切符を唇のあいだに挟んでいた。両の手に幼い子供を引きつれた貧しい女は、その大きな手荷物を歯で噛みしめて運んでいた。木靴を履いた年老いた農婦は、橋の横木につまずかぬようスカートを持ち上げ、干からびた素肌の脚をさらしていた。裸足の人も数多く、彼らは靴を首にぶら下げていた。かかる貧しき人々の群れのなかを時おり、エレガントなコートを羽織った紳士や、司祭や、羽飾りのついた大きな帽子をかぶっている婦人らが、仔犬だったり、帽子箱だったり、「レヴィ社」が遠い昔に手がけた、挿し絵付きのフランスの小説の束だったりを持って歩いていく。やがて、人間の行列が突然に途絶えると、棒で打つ音や叱責の声に包まれながら、牛や羊の一団が船内へと連れていかれる。獣たちはあちらこちらへ歩みを進め、驚きに打たれ、「モーモー」だの「メェメェ」だのと鳴き声を上げる。その声に覆いかぶさるようにして、船首にいる馬たちの「ヒヒン」といういななきや、水夫と荷物運びの叫び声、蒸気で動くクレーンの耳を裂くような轟音が、あたり一帯に響きわたる。数えきれないほどの行李や木箱が、クレーンによって宙高く持ちあげられる。獣の乗船が一段落すると、移民たちはふたたび行列をつくる。顔つきや服装からして、イタリアのあらゆる土地からやってきた人びとだと分かる。哀しい目をした屈強な労働者、ぼろをまとった汚い老人、妊婦、陽気な娘、ほろ酔いの青年、上着を脱いだ田舎の男、若者のうしろにまた若者。甲板に足を踏み入れるやいなや、給仕、官吏、商社の社員、税関の職員らが、あちこちをせわしなく行き来する光景が視界に飛びこんでくる。こうして移民たちは呆然とし、人混みに溢れかえる広場にいるときのように、右も左も分からなくなってしまう。乗船が始まってから2時間たっても、蒸気船はぴくりとも動かないまま、岸辺に食らいつく巨大な鯨のようにして、なおもイタリアの血を吸いこみつづけていた。(続く)


『洋上にて』連載一覧
第0回(訳者緒言) 第1回 第2回 第3回 第4回

訳:栗原俊秀(翻訳家)


栗原俊秀による翻訳書

カルミネ・アバーテ著、栗原俊秀訳、未知谷、2016年

アイキャッチ画像:ラファエロ・ガンボージ《移民たち》1894年
画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Raffaello_Gambogi_-_The_Immigrants_(1894).jpg